7月27日の取引終了後、キヤノン(7751)が2026年12月期の第2四半期(中間期)決算を発表しました。発表前に書いた予測記事では「良い数字は期待しづらい回」と見ていたのですが、結果は中間の営業利益が前年同期比+7.6%の増益、しかも通期の見通しを上方修正という内容でした。私の見立ては外れたので、どこを読み違えたのかも含めて答え合わせをしていきます。
1. 会社概要
キヤノンは1937年創業、東京都大田区に本社を置く精密機器の世界的メーカーです。事業は「プリンティング(複合機・プリンター)」「イメージング(ミラーレスカメラ・ネットワークカメラ)」「メディカル(医療機器)」「インダストリアル(半導体・FPD露光装置)」の4本柱。海外売上比率が高く、為替や部材コストの影響を受けやすいのが特徴です。米国会計基準で決算を開示しており、12月決算のため今回が上期(中間期)の締めにあたります。
2. 業績推移
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 純利益 | EPS | 年間配当 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2024/12実績 | 4兆5,098億 | 2,798億 | 1,600億 | 165.5円 | 155円 |
| 2025/12実績 | 4兆6,247億 | 4,554億 | 3,321億 | 367.5円 | 160円 |
| 2025/12中間実績 | 2兆1,986億 | 2,143億 | 1,559億 | 169.16円 | 中間80円 |
| 2026/12中間実績 | 2兆2,745億(+3.5%) | 2,306億(+7.6%) | 1,712億(+9.8%) | 197.51円(+16.8%) | 中間80円 |
| 2026/12通期見通し | 4兆8,000億(+3.8%) | 4,650億(+2.1%) | 3,400億(+2.4%) | 398.84円 | 160円(予) |
中間期としては売上・各利益ともきれいな増収増益です。とくにEPS(1株当たり利益)は+16.8%と、純利益の伸び(+9.8%)を大きく上回っています。理由は後述します。
3. 決算ポイント — 1Qの「▲26%」が2Qは「+35%」に
今回いちばん驚いたのはここです。すでに発表されていた第1四半期(1〜3月)の営業利益は前年同期比▲26.1%の大幅減益でした。ところが第2四半期(4〜6月)単独では1,592億円・前年同期比+35.2%と一転して大幅増益。売上高1兆1,809億円は四半期として過去最高です。

ただし、ここで「本業が急に強くなった」と受け取るのは早いと思います。会社が示した2Qの営業利益+414億円の要因分解を見ると、増益の主役は米国関税の影響(還付を含む)+580億円と円安による為替+289億円という、どちらも外部要因でした。

逆風のほうは消えていません。メモリー価格の高騰は2Q単独で▲154億円、中東情勢の影響は▲115億円のマイナス。さらに数量・製品ミックスや経費も合計▲186億円のマイナスです。つまり「実力の部分はむしろ苦しいまま、外部要因の追い風がそれを上回った四半期」という読み方が正確だと思います。予測記事で私が「メモリー高が和らぐ兆しがあるか」を見たいと書いた点については、和らいでいないのが答えでした。
事業別(上期の営業利益)では明暗が分かれました。
| 事業(上期) | 売上高 | 営業利益 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| プリンティング | 1兆2,399億 | 1,575億 | +5.0% |
| イメージング | 5,527億 | 976億 | +38.8% |
| メディカル | 2,774億 | 83億 | ▲29.2% |
| インダストリアル | 1,452億 | 174億 | ▲33.1% |
牽引したのはイメージングです。2Q単独ではカメラ売上が+12.9%、ネットワークカメラ等が+24.8%と伸び、営業利益は+78.7%。ただしカメラの販売台数は2Qで前年比▲10%(67万台)で、台数は減っているのに売上が伸びている=高価格帯へのシフトと為替の効果という中身です。一方でメディカル(医療機器)は通期見通しも営業228億円へ引き下げ(前回382億円)となっており、ここは素直に弱い。インダストリアルも産業機器(有機EL製造装置など)の落ち込みで減益です。
4. 今期(2026年12月期)の会社見通し — 4,560億→4,650億へ上方修正
予測記事では「下方修正後の4,560億円を維持できるか、さらに下げるのか」を注目点に挙げていました。結果は維持どころか+90億円の上方修正でした。中身は次のとおりで、悪い材料と良い材料の両方をまとめて織り込んだ修正です。
| 項目 | 前回見通し | 最新見通し | 差 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 4兆7,650億 | 4兆8,000億 | +350億 |
| 営業利益 | 4,560億 | 4,650億 | +90億 |
| 純利益 | 3,330億 | 3,400億 | +70億 |
| EPS | 392.1円 | 398.84円 | +6.7円 |
ここは冷静に見ておきたいところです。上方修正の原動力は関税と為替であり、下期の想定レートを1ドル150円→155円、1ユーロ175円→180円と円安側に置き直したことが効いています。会社自身も中東情勢の影響を▲346億円と大きく織り込み、「売上の正常化は10月以降まで延びる」と説明しています。実需(数量・製品ミックス)は▲371億円のマイナスで見ているわけで、上方修正といっても中身は「外部環境の追い風で、実需の弱さを埋めた」という構図です。円が反対方向に振れれば、この前提は崩れます(会社の試算では1ドル1円の変動で営業利益15億円が動きます)。
なお決算と同時に、キヤノンは「子会社の吸収分割に伴う特別損失999億円の計上」も開示しました。金額が大きいのでニュースの見出しだけを見ると不安になりますが、これはキヤノン株式会社1社だけの「単独(個別)決算」の話で、私たちが普段見ている連結決算には影響しません(会社も「連結業績に与える影響はありません」と明記)。

5. 配当の魅力 — 160円を維持、自社株買いも継続
予測記事で確認したかった3つ目のポイント「累進配当の姿勢が揺るがないか」は、変わらずでした。中間配当は80円(支払開始は8月25日予定)、年間160円の予想も据え置きです。決算短信には「配当金額を下げることなく、配当性向40%を目途に安定的かつ積極的な利益還元を行う」という方針が改めて記載されています。
| 項目 | 数値(2026/12見通しベース) |
|---|---|
| 年間配当(予想) | 160円(中間80円+期末80円) |
| 予想EPS | 398.84円(前回392.1円から上方修正) |
| 予想配当性向 | 約40.1% |
| 配当利回り(7/27終値4,750円) | 約3.37% |
| 方針 | 減配せず・配当性向40%目途・機動的な自社株買い |
| ROE見通し | 9.8%(資本コスト5〜6%) |
そしてもう一つの還元、自社株買いの効果がはっきり数字に出ました。上期の純利益は+9.8%でしたが、EPSは+16.8%。この差は株数が減ったためです。期中平均株式数は前年同期の約9億2,162万株から約8億6,670万株へ、6.0%減。自己株式は昨年末の約4億5,514万株から約4億8,442万株へ増えています。配当を維持しながら株数を減らすことで、1株あたりの価値が着実に高まる——長期保有の立場からはありがたい構造です。
6. 類似銘柄との比較
| 銘柄 | 予想PER | PBR | 配当利回り |
|---|---|---|---|
| キヤノン(7751) | 11.9倍 | 1.16倍 | 3.37% |
| リコー(7752) | 14.9倍 | 0.80倍 | 2.70% |
| セイコーエプソン(6724) | 16.8倍 | 1.16倍 | 2.58% |
| ニコン(7731) | 72.4倍 | 1.23倍 | 0.91% |
事務機・映像・精密のライバルと並べても、キヤノンはPERが最も低く配当利回りが最も高い位置を維持しています。今回EPSが上方修正された分、予想PERはさらに下がりました。業界内では引き続き割安・高配当のバランス型という位置づけです。
7. 保有状況
私はキヤノンを取得単価3,053円で保有株数分保有しています。7月27日終値は4,750円(前日比+224円、+4.95%)で、含み益は約+56%。取得単価に対する配当利回り(取得利回り)は約5.24%です。なお決算の開示は15時30分=取引終了後だったため、この日の株価上昇は決算内容を織り込んだものではありません。市場の評価が出るのは翌営業日以降です。
8. NISAとの相性
配当利回り3.4%前後の大型株は、NISA成長投資枠と相性の良い銘柄です。仮に100株(約47.5万円)をNISAで保有した場合、年間配当16,000円が非課税で受け取れます(通常は約20%課税されるため、手取りで約3,200円の差)。減配しない方針+自社株買いでEPSが増える設計は、非課税の恩恵を長く受け取るうえで心強い材料です。
9. 個人株主としての見解
まず訂正から。予測記事で私は「中間も減益基調が濃厚」と書きましたが、結果は増益で、通期も上方修正でした。見立ては外れました。ただ、外れた理由は「本業が想定より強かった」ではなく「関税の還付と円安という、私が読めない外部要因が想定以上に効いた」というものです。実需(数量・製品ミックス)は上期も通期見通しもマイナス、メモリー高と中東情勢の逆風も続いている——ここは予測記事の見方のままでした。
だから私の受け止めは「素直に良い決算だが、喜びどころは慎重に選ぶ」です。評価したいのは、①イメージングが台数減を単価と品揃えでカバーして稼いでいること、②配当160円を維持したうえで株数を6%減らし、EPSを+16.8%まで押し上げていること。逆に気をつけたいのは、③上方修正の原動力が為替と関税である=前提が変われば逆回転しうること、④メディカルの通期見通しが大きく引き下げられたことです。
とはいえ、私の保有スタンスは変わりません。減配しない方針と自社株買いが続くかぎり、四半期ごとの数字の上下で売り買いする理由はないと考えています。飛びつかず、淡々と。次は10月下旬の3Q決算で、下期の実需がどう出るかを確認したいところです。
10. 免責事項
本記事は筆者個人の保有記録と所感をまとめたものです。特定銘柄の売買を推奨するものではなく、投資助言でもありません。記載の数値は決算短信・決算説明会資料・株探・Yahoo!ファイナンス等をもとにした概算で、実際の数値や最新の株価とは異なる場合があります。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


コメント