2026年8月17日、コムチュア(3844)の株価が前日比10%を超える急落となっています。8月14日の取引終了後に発表された2027年3月期第1四半期決算で、最終損益が5億円の赤字に転落したことがきっかけです。
「増収なのに赤字?」「配当は大丈夫なの?」——保有している方の中には、赤い数字を見て不安になっている方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、今回の赤字は「お金が出ていくタイプの赤字」ではありません。ただし、だからといって「何も問題なし」でもない、というのが正直なところです。この記事では、決算短信と会社の開示資料をもとに、どこが心配しなくてよくて、どこは注意して見ておくべきかを、図解をまじえてできるだけやさしく整理します。
この記事は2026年8月17日13時20分時点の株価(1,318円)と、8月14日公表の決算短信・適時開示にもとづいて書いています。投資の最終判断はご自身でお願いします。
1. コムチュア(3844)はどんな会社?
コムチュアは東証プライム上場のIT企業です。1985年の創業以来、グループウェア、ERP、クラウド、SaaS、ビッグデータと、その時代ごとの新しいIT技術に乗り換えながら成長してきました。会社によれば実質16期連続の増収、15期連続の増益を達成しています。
今期からは事業の区分を3つに変更しました。それぞれ何をしているのかを図にまとめます。

ざっくり言えば、「企業がデータやAIを使えるようにするための、作る・変える・支える」を全部やっている会社です。Microsoft、Salesforce、ServiceNow、SAP、kintone といった主要なSaaS、さらに Databricks、Snowflake、SAS、AWS などのデータ・AI基盤まで幅広く扱えるのが強みとされています。
2. 業績推移(通期)
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 最終利益 | 1株益 | 1株配当 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2023年3月期 | 290.5億円 | 40.6億円 | 40.6億円 | 26.9億円 | 84.6円 | 44円 |
| 2024年3月期 | 341.8億円 | 46.0億円 | 45.9億円 | 31.3億円 | 98.4円 | 46円 |
| 2025年3月期 | 363.4億円 | 46.3億円 | 46.6億円 | 31.6億円 | 99.1円 | 48円 |
| 2026年3月期 | 381.0億円 | 46.6億円 | 47.1億円 | 32.8億円 | 103.0円 | 50円 |
| 2027年3月期(予) | 420.0億円 | 47.0億円 | 47.3億円 | 22.5億円 | 70.5円 | 52円 |
売上は着実に伸び続けています。一方で、営業利益は2024年3月期の46.0億円からほぼ横ばいで、「増収はしているが、利益が伸びていない」状態が数年続いている点は押さえておきたいところです。
3. 今回の決算ポイント:なぜ赤字になったのか
| 項目 | 前年同期 | 今回(1Q) | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 89.6億円 | 95.5億円 | +6.7% |
| 売上総利益 | 18.6億円 | 19.1億円 | +2.7% |
| 営業利益 | 8.7億円 | 7.4億円 | -13.7% |
| 経常利益 | 8.6億円 | 7.6億円 | -12.1% |
| 最終損益 | +5.7億円 | -5.1億円 | 赤字転落 |
| EBITDA | 9.9億円 | 9.9億円 | -0.7% |
注目してほしいのは、営業利益・経常利益はどちらも黒字を確保しているという点です。それなのに最終損益だけが赤字になりました。その理由が下の図です。

本業のもうけである営業利益は7.4億円の黒字。そこから、「減損損失14.3億円」という特別損失が一度に差し引かれたため、最終的に5.1億円の赤字になった、という構図です。
減損損失とは何か——「お金が出ていく赤字」ではない
ここが今回いちばん誤解されやすいポイントなので、図でていねいに説明します。

コムチュアは業務を効率化するため新しい基幹システムを開発し、2026年4月に稼働させました。ところが6月に新しい経営体制がスタートし、中期経営計画をつくる過程で「このシステムを使い続けるより、そのお金をAI活用や人材育成に回したほうがよい」と判断。システムの一部を使うのをやめることを決めました。
使うのをやめると、帳簿に「資産」として載っていたシステムの価値を消さなければなりません。この処理が減損損失です。お金を払ったのは過去(開発時)であって、今期に現金が出ていくわけではありません。
会社も開示資料で明記しています。「当該損失は主として会計上の減損処理によるものであり、キャッシュ・フローへの直接的な影響はありません」「基幹システムの運用移行に伴う当社の事業活動および顧客向けサービスの提供に支障はありません」
通期予想は「最終利益だけ」が下方修正された
| 項目 | 前回予想(5/15) | 今回修正(8/14) | 増減 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 420.0億円 | 420.0億円 | 変更なし |
| 営業利益 | 47.0億円 | 47.0億円 | 変更なし |
| 経常利益 | 47.3億円 | 47.3億円 | 変更なし |
| 最終利益 | 32.3億円 | 22.5億円 | -30.3% |
| 1株益 | 101.27円 | 70.55円 | -30.3% |
| 1株配当 | 52円 | 52円 | 変更なし |
修正されたのは最終利益と1株益だけで、売上・営業利益・経常利益は据え置きです。つまり会社は「本業の計画そのものは変えていない」と言っていることになります。
4. ただし——本当に注意すべきなのは減損ではありません
ここからは、安心材料だけでなく気になる点もお伝えします。
今回の決算では、会計のルールが一部変更されています。工期がごく短く金額も小さい案件について、進捗に応じて売上を計上する方式に変えたというものです。この変更によって、売上高が2.8億円、営業利益が1.0億円ぶん「かさ上げ」されています(会社が短信に明記)。

つまり、前年と同じ条件で比べると、営業利益の減益幅は-13.7%ではなく-25.5%になります。売上の伸びも、+6.7%ではなく+3.5%です。
減益の理由として会社が挙げているのは次の通りです。
- 一部のクラウド領域で大型案件の失注や受注時期のずれが発生した
- プロジェクトマネジャーを中心とした人材の不足
- 昇給と社員数増加による労務費の増加
- 新基幹システムの稼働にともなう減価償却費・ライセンス費用などの増加
このうち「大型案件の失注」と「プロジェクトマネジャー不足」は、一度きりでは終わらない可能性がある話です。14億円の減損はインパクトが大きく見えますが一度きり。むしろ地味に見える営業利益の減少のほうが、これから先に効いてくる論点だと考えています。
通期の営業利益予想47.0億円に対して、1Qの進捗率は15.9%。前年同期の進捗率18.6%と比べると、やや出遅れたスタートです。コムチュアは例年1Qが最も弱い四半期なので過度な心配は不要ですが、2Q以降で挽回できるかは要確認です。
5. 今期の会社予想と、新しい中期経営計画
今期(2027年3月期)の会社予想は、売上高420億円(+10.2%)、営業利益47.0億円(+0.8%)。売上は2ケタ成長を見込む一方、営業利益はほぼ横ばいの計画です。
決算と同じ8月14日、会社は新しい中期経営計画(2027年3月期〜2029年3月期)も発表しました。「AI時代の第二の創業」と位置づけた、かなり踏み込んだ内容です。
| 項目 | 2026年3月期(実績) | 2029年3月期(計画) | 年平均成長率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 381.1億円 | 530.0億円 | 11.6% |
| 営業利益 | 46.6億円 | 63.0億円 | 10.6% |
| EBITDA | 53.1億円 | 76.0億円 | 12.7% |
| EBITDAマージン | 13.9% | 14.5% | — |
| ROE | 17.0% | 18.0%以上 | — |
さらにその先、2032年3月期に売上高1,000億円を目指すとしています。従来の「エンジニアを提供する」ビジネスから、顧客の現場に入り込んで課題解決まで伴走する「FDE(Forward Deployed Engineer)モデル」へ転換する、というのが計画の柱です。
今回の減損は、この中計づくりの過程で出てきたものです。社長は「すでに投資を進めているテーマについても聖域を設けず精査し、将来の企業価値向上につながらないと判断した投資については中止・撤退も決断する」とコメントしています。稼働からわずか数か月の自社システムを止める判断は、その言葉どおりの行動とも読めます。
ただし中計には「AI活用、人材育成、M&A、オフィス環境刷新などの先行投資により、中期的には利益率に影響が生じる局面も想定しています」とも書かれています。しばらく利益が伸びにくい時期が続く可能性は、あらかじめ織り込んでおいたほうがよさそうです。
6. 配当の魅力:52円予想は据え置き
保有している方がいちばん気になるのは配当だと思います。結論は「据え置き」です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 2027年3月期(予) |
|---|---|---|---|
| 年間配当 | 48円 | 50円 | 52円 |
| 1株益(EPS) | 99.1円 | 103.0円 | 70.55円 |
| 配当性向 | 48.4% | 48.5% | 73.7% |
| 連続増配 | 継続 | 継続 | 継続見込み |
| 配当利回り | — | — | 3.95% |
※配当利回りは2026年8月17日13時20分時点の株価1,318円で計算。コムチュアは四半期配当を採用しており、1Q末配当13円の支払開始日は2026年8月31日です。
今期の配当性向73.7%は一見高く見えますが、これは減損でEPSが押し下げられているためです。減損がなかった場合のEPS101.27円で計算すると配当性向は51.3%となり、例年並みの水準に収まります。
会社は配当据え置きの理由をこう説明しています。「減損損失自体が非資金費用であることに加え、当社グループの財務基盤、キャッシュ創出力および配当方針を総合的に勘案し、1株当たり52円の従来予想を据え置いております」。
財務は非常に健全です。自己資本比率76.6%、有利子負債倍率0.01倍と、実質的に借金のない会社です。減配を心配する状況ではないと考えています。
7. 類似銘柄との比較
| 銘柄 | PER(予) | 配当利回り(予) | 配当性向(概算) |
|---|---|---|---|
| コムチュア(3844) | 18.7倍 | 3.95% | 73.7% |
| システナ(2317) | 14.6倍 | 4.14% | 約60% |
| NSD(9759) | 16.1倍 | 3.47% | 約56% |
| 電通総研(4812) | 28.9倍 | 1.69% | 約49% |
※2026年8月17日時点の株探・Yahoo!ファイナンス等にもとづく概算です。
コムチュアのPER18.7倍は減損で目減りした今期EPS(70.55円)で計算した数字なので、割高に見えやすい点に注意が必要です。前期のEPS103.0円で計算するとPERは12.8倍となり、システナやNSDより割安な水準になります。
配当利回り3.95%は、この業界の中では高い部類です。IT企業は成長株として扱われ利回りが低めになりがちですが、コムチュアとシステナは4%前後と、高配当株としても見られる水準にあります。
8. 保有状況
私は保有株数分を保有しています。今回の急落で評価額は目減りしましたが、売却は考えていません。
理由は3つです。
- 赤字の中身が現金の出ていかない一度きりの減損であること
- 配当52円が据え置かれたこと(四半期配当で年4回受け取れる点も気に入っています)
- 自己資本比率76.6%・実質無借金という財務の頑丈さ
ただし、買い増しについては2Qの決算を見てから判断するつもりです。営業利益の減益が一時的なものなのか、それとも構造的なものなのかを見極めたいためです。
9. NISAとの相性
コムチュアはNISA成長投資枠の対象です。配当利回り3.95%で、四半期ごとに配当を受け取れます。
通常、配当には約20%の税金がかかりますが、NISA口座なら非課税です。仮に100万円ぶん保有した場合、年間の配当は約39,500円。課税口座なら手取りは約31,500円になるところ、NISAなら約8,000円多く残る計算になります。
ただし、今回のように1日で10%動く値動きの大きさはある程度覚悟が必要です。NISAは損益通算ができないため、値下がりした場合に他の利益と相殺できません。一度にまとめて買わず、時間を分けて少しずつが、この銘柄には合っていると思います。
10. 個人株主としての見解
今回の決算を一言でまとめると、「大きく見える数字は痛くない。小さく見える数字のほうが重い」という決算でした。
14億円の減損は金額こそ大きいものの、現金は出ていかず、一度きりで、売上・営業利益・経常利益の通期計画も、配当予想52円も変わっていません。ここで慌てて売る理由は乏しいと考えています。
一方で、営業利益が前年同期比-13.7%(会計変更を除けば-25.5%)まで落ちていることのほうが、本来注目すべき数字です。原因が「大型案件の失注」と「プロジェクトマネジャー不足」である以上、すぐに解決する話ではありません。
見方を変えれば、新経営陣が稼働したばかりの自社システムを止めてまで資源を配分し直したのは、本気度の表れとも受け取れます。「聖域なく精査する」という言葉を、就任早々に自社への痛みをともなう形で実行したわけです。これを前向きに評価するかどうかで、今回の決算の受け止め方は変わってくると思います。
私は保有を継続しつつ、2Q決算で本業の利益が戻るかを確認するというスタンスです。今は「決算が悪かったから売る」でも「下がったから買う」でもなく、中身を分けて理解して、次の決算を待つ局面だと考えています。
急落した日は、どうしても不安が先に立ちます。でも「その赤字は現金が出ていく赤字なのか」「配当は維持されたのか」「本業の利益はどうなっているのか」——この3つを確認するだけで、慌てて売るべき決算かどうかはかなり見えてきます。今回のコムチュアは、その練習にちょうどよい教材かもしれません。
免責事項
本記事は筆者個人の見解をまとめたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載の数値は2026年8月14日公表の決算短信・適時開示および2026年8月17日13時20分時点の株価情報にもとづいていますが、正確性を保証するものではありません。株価は場中のため、当日の終値とは異なります。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。


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