本日2026年8月10日、エーワン精密(6156)が2026年6月期 本決算を発表します。発表前の今のうちに、注目ポイントを整理しておきます。
エーワン精密は前期(2025年6月期)、営業利益・経常利益は黒字を確保しながら最終損益は2.2億円の赤字に転落しました。それでも年間配当は100円を据え置き、5期連続で同額を維持する計画です。「最終赤字なのに配当は減らない」——このねじれの理由と、今期の黒字回復の中身を見ていきます。
1. 会社概要
株式会社エーワン精密(A-ONE SEIMITSU INC.)は、東京都府中市に本社を置く精密機械部品メーカーです。1990年7月設立、2003年3月に東証(現・東証スタンダード)に上場しました。従業員数は108人(単独)、平均年齢41.5歳、平均年収513万円という小回りの利く体制です。
主力は旋盤加工で工作物をつかむ「コレットチャック」で、国内で高いシェアを持ちます。ほかに顧客の要望に合わせて形状を成形する「別注切削工具」の製作・再研磨、市販切削工具の再研磨、自動旋盤用カムの製造も手掛けています。売上構成比はコレットチャック部門が約7割・切削工具部門が約3割・自動旋盤用カム部門が約1%です。最大の特色は、超短納期を武器にした顧客開拓と、借入金のない無借金経営(自己資本比率90%超)にあります。
2. 業績推移テーブル
| 決算期 | 売上高 | 経常益 | 最終益 | EPS | 配当 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2022年6月期 | 18.7億円 | 4.4億円 | 3.1億円 | 63.2円 | 100円 |
| 2023年6月期 | 17.6億円 | 2.8億円 | 1.9億円 | 38.3円 | 100円 |
| 2024年6月期 | 16.0億円 | 1.8億円 | 1.2億円 | 24.0円 | 100円 |
| 2025年6月期 | 15.9億円 | 1.2億円 | ▲2.2億円 | ▲44.1円 | 100円 |
| 2026年6月期(会社予想) | 17.0億円 | 3.2億円 | 2.2億円 | 43.8円 | 100円 |
売上高は2022年6月期の18.7億円をピークに3期連続で減少していましたが、今期は17.0億円(前期比+6.9%)への回復を会社は見込んでいます。最終益は2022年6月期から3期連続で減少したうえ、2025年6月期に赤字転落するというジェットコースターのような動きですが、今期は経常益が前期比+167.2%、最終益は黒字転換の予想です。
3. 決算ポイント(予測)
①前期の赤字転落は本業不振ではなく、切削工具部門の固定資産減損(特別損失4.5億円)が主因。前期は別注切削工具の製作に力を入れて設備投資を積み増したものの、営業体制の強化が追いつかず、国内製造業の業況も改善しなかったため、同部門の損益がマイナスに。この結果を受けて固定資産の減損損失446百万円を計上し、営業利益・経常利益が黒字だったにもかかわらず最終赤字(▲2.2億円)に転落しました。会社側は「今期は減損の反動で切削工具部門の減価償却費が減り、利益率が改善する見込み」とコメントしています。
②直近の第3四半期累計(2025年7月〜2026年3月)は大幅増益。売上高11.97億円(前年同期比+1.3%)、営業利益1.20億円(同+165.0%)、経常利益1.53億円(同+124.5%)、四半期純利益1.05億円(同+144.8%)、EPS20.80円と、前期の落ち込みからの反動増が顕著です。稼ぎ頭のコレットチャック部門は、中国向けの半導体検査プローブ部品加工の受注増加が牽引役になりました。
| 期間 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 |
|---|---|---|---|---|
| 3Q累計(2025年7月〜2026年3月)実績 | 11.97億円 | 1.20億円 | 1.53億円 | 1.05億円 |
| 通期(2026年6月期)会社予想 | 17.0億円 | 2.98億円 | 3.2億円 | 2.2億円 |
| 通期に対する進捗率 | 70.4% | 40.3% | 47.7% | 47.6% |
③会社は5月時点で「通期見通しを精査中」とコメントしていた点には注意。第3四半期決算短信(2026年5月8日発表)では、「世界情勢が大きく変化しており、今後の状況を考慮して業績予想を精査しているところ」と述べ、イラン情勢の急変による原油調達難などを懸念材料として挙げていました。ただしその後、業績予想の正式な修正は発表されておらず、本日時点でも通期予想は売上高17.0億円・経常益3.2億円・最終益2.2億円のまま据え置かれています。本決算発表でこの水準を達成できるか、あるいは着地間際で下振れするかが最初の注目点です。
4. 今期(発表対象期)の会社予想
2026年6月期の会社計画は、売上高17.0億円(前期比+6.9%)、営業利益2.98億円(同+252.0%)、経常利益3.2億円(同+167.2%)、当期純利益2.2億円(前期は2.2億円の損失から黒字転換)、EPS43.82円です。前期の赤字が特別損失(減損)による一時的なものだった点を踏まえると、経常利益ベースでの黒字幅拡大こそが今期の実質的な回復ストーリーと言えます。
第3四半期累計の経常利益はすでに通期予想の47.7%に達しており、過去の実績でも売上・利益ともに年度末(4〜6月)にかけて伸びる傾向があることを踏まえると、通期計画の達成は視野に入っている水準です。
5. 配当の魅力
エーワン精密は2022年6月期から2026年6月期(予想)まで、5期連続で年間配当100円を据え置いています。この間、EPSは63.2円→38.3円→24.0円→▲44.1円→43.8円(予想)と大きく上下していますが、配当額は一度も変えていません。

ここで気になるのが「配当性向228.2%」という数字です(=配当100円÷今期予想EPS43.82円)。配当性向が100%を超える状態は、一般に「利益以上に配当を払っている=タコが自分の足を食べるように蓄えを取り崩している」として警戒されます。実際、2025年6月期のように最終赤字の年でも配当性向を計算できない(利益がマイナスのため)水準まで配当を維持しており、この年は実質的に内部留保を取り崩して配当原資に充てた形です。
それでも同社が配当を維持できる背景には、無借金かつ自己資本比率92.9%という強固な財務体質があります。総資産80.6億円に対して自己資本74.9億円、現金及び預金だけでも4.3億円を保有しており、仮に配当性向が200%を超える年が続いても、すぐに資金繰りが行き詰まる財務状況ではありません。ただし、この状態が何年も続けば体力は着実に削られていくため、「稼ぐ力(EPS)が配当額を上回る状態に戻れるかどうか」は中長期で注視すべきポイントです。
直近の株価(2026年8月7日終値1,839円)ベースでの予想配当利回りは5.44%です。
6. 類似銘柄との比較
| 銘柄 | PER(予) | 配当利回り(予) | 配当性向(予) |
|---|---|---|---|
| エーワン精密(6156) | 42.1倍 | 5.44% | 228.2% |
| 黒田精工(7726) | 23.5倍 | 1.45% | 34.0% |
| ユニオンツール(6278) | 26.1倍 | 0.91% | 23.8% |
| ヤマザキ(6147) | 34.4倍 | 5.38% | 185.2% |
※数値は2026年8月7日時点の概算(株探・各種株価情報サイトに基づく)。
工作機械向け部品・工具の同業で比較すると、エーワン精密のPERは42倍台と突出して高く、稼ぐ力(EPS)に対して株価が先回りしている面がうかがえます。配当利回りは5%台と、同じく高配当のヤマザキ(6147)に匹敵する水準ですが、時価総額はエーワン精密が約97.5億円、ヤマザキは約8.5億円の超小型株、黒田精工は約79.7億円、ユニオンツールは約3,262億円と規模はバラバラです。配当性向で見ても、エーワン精密とヤマザキは200%前後と突出して高く、いずれも「多少の業績変動があっても配当額は据え置く」路線を選んでいる点で共通します。ただしヤマザキは近年赤字と黒字を行き来する不安定な業績が続いているのに対し、エーワン精密は無借金・自己資本比率92.9%という財務の安定感が下支えになっている点が大きな違いです。
7. 保有状況
私はエーワン精密を保有株数分保有しています。取得単価は1,745円、2026年8月7日終値は1,839円で、含み益が出ている状況です。取得単価ベースの利回り(取得利回り)は100円÷1,745円=5.73%となります。
8. NISAとの相性
配当利回りが5%を超える水準にあり、NISA口座で保有すれば配当金にかかる税金(通常約20%)が非課税になるメリットは大きい銘柄です。仮に100株をNISA枠で保有した場合、年間配当10,000円がまるまる非課税で受け取れる計算になります(あくまで一般的な試算例です)。ただし東証スタンダード市場・時価総額約97億円の小型株で、1日の売買代金も1,000万円台前半と薄いため、値動きが荒くなりやすい点は踏まえておきたいところです。
9. 個人株主としての見解
前期の最終赤字だけを見ると身構えてしまいますが、中身を分解すると、①赤字の主因は本業不振ではなく切削工具部門の一時的な減損であったこと、②営業利益・経常利益はむしろ黒字を確保していたこと、③今期は経常益が前期比+167%の予想で、直近3Qの実績もそれを裏付ける増益基調にあること、の3点から、今のところ「業績の底は前期で打った」と捉えられる内容だと考えています。
一方で、配当性向が200%を超える状態が5期連続で続いている点は、無借金経営という安心材料はあるものの、いつまでも続けられる仕組みではありません。今期本決算で通期計画を達成できるか、そして来期(2027年6月期)以降の配当方針にどんなメッセージが添えられるかを、率直に注目したいと思います。「配当は据え置かれているから安心」で思考を止めず、EPSが配当額(100円)を上回る水準まで戻ってくるかどうかを、次の決算以降も追っていくつもりです。
10. 免責事項
本記事は個人投資家である筆者の見解・記録であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中の数値は各種公開情報をもとに作成していますが、正確性を保証するものではなく、また将来の業績・配当を保証するものでもありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。


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