2026年7月29日、中部電力(9502)が2027年3月期 第1四半期決算を発表します。今回は「発表前の予測記事」として、会社が既に公表している情報から読み解けるポイントを整理します。
1. 会社概要
中部電力は、愛知・岐阜・三重など中部地方を主な供給エリアとする大手電力会社です。2020年の発送電分離により、小売事業を担う「中部電力ミライズ」と送配電ネットワークを担う「中部電力パワーグリッド」を分社化し、持株会社体制に移行しました。さらに、東京電力と共同出資する火力発電・燃料調達会社「JERA」の持分(持分法適用関連会社)を通じた収益も、業績の重要な柱となっています。なお、当ブログでたびたび取り上げている不動産デベロッパーのエスコン(8892)は中部電力が約51.3%を出資する連結子会社であり、電力以外の分野にも事業を広げています。

2. 業績推移テーブル
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | EPS |
|---|---|---|---|---|---|
| 2024年3月期 | 3兆6,104億円 | 3,433億円 | 5,093億円 | 4,031億円 | 533.20円 |
| 2025年3月期 | 3兆6,692億円 | 2,420億円 | 2,764億円 | 2,021億円 | 267.41円 |
| 2026年3月期(実績) | 3兆5,460億円(▲3.4%) | 2,300億円(▲5.0%) | 2,911億円(+5.3%) | 2,278億円(+12.7%) | 301.57円 |
| 2027年3月期(会社予想) | 未定(中東情勢の影響で合理的な見通しが困難なため) | ||||
電力会社は燃料価格の変動を電力販売価格に転嫁する「燃料費調整制度」があるため、業績が燃料価格の動きと時間差(期ずれ)で連動しやすい業種です。前期は売上高・営業利益が減少する一方、経常利益・純利益は増加するという、一見ねじれた結果になりました。
3. 決算ポイント(予測)
① 営業減益なのに純利益は+12.7%増益の理由
前期は売上高・営業利益がともに減少したにもかかわらず、経常利益は+5.3%、純利益は+12.7%の増益でした。カラクリは「持分法投資損益」です。持分法適用関連会社であるJERA(火力発電・燃料調達)からの投資利益が前期611億円から当期947億円へと大幅に拡大し、営業利益の落ち込みを補って余りある増益要因となりました。JERA単体の経常損益も、国内火力事業における石炭の調達競争力改善などにより前期比+268億円の941億円まで伸びています。

電力・ガス小売を担う「ミライズ」も、期ずれが差損から差益に転じたことなどで経常利益+17.9%と好調でした。本業の電力販売そのものよりも、燃料市況・持分法子会社という「外部要因」が今期業績を左右しやすい構造である点を押さえておきたいところです。
② 通期業績予想は異例の「未定」
今回最大の注目点は、中部電力が2027年3月期の通期業績予想を「未定」としている点です。短信では「中東情勢の影響などから、業績見通しの前提となる燃料価格や卸電力市場価格等の不確実性が高まっており、現時点では2026年度の収支水準を合理的に見通すことが困難」と説明されています。中部エリアの電力需要への直接的な影響は現時点で限定的としながらも、JERAのLNG調達への影響(燃料船の航行制限等)を注視するとしており、中東情勢が長期化・深刻化した場合のリスクを明確に意識した異例の対応です。通期予想が定まらない中、今回の1Q決算は数少ない業績の手がかりとなります。
③ 浜岡原発の審査関連費用
前期は、浜岡原子力発電所の新規制基準適合性審査における基準地震動策定に関する不適切事案を受け、審査に関係する業務等の委託契約を解約し、実施済み業務に対応した費用を計上しています。また子会社等における減損損失160億円も特別損失として計上しました。それでもなお経常利益・純利益ともに増益で着地した点は、JERAの増益効果がいかに大きかったかを物語っています。この審査関連の対応が今後どう進むかは、中長期的な論点として引き続き注視が必要です。
④ 1Qの目安―前年同期との比較
前年1Q(2025年4-6月)の実績は、売上高8,003億円、営業利益679億円、経常利益1,048億円、純利益853億円、EPS113.0円でした。前期通期の経常利益2,911億円に対し、1Qだけで1,048億円(36.0%)を稼いでおり、電力会社としては1Qの構成比が比較的高い点も特徴です。通期予想が「未定」のため進捗率で語ることはできませんが、この前年同期の水準を上回れるかどうかが、今回の1Q決算を評価する際の実質的な物差しになりそうです。
4. 今期(2027年3月期)の会社予想
売上高・利益とも「未定」です。会社は「今後、合理的な想定が可能となった時点で、速やかにお知らせいたします」としており、中東情勢を含むエネルギー市況の落ち着き具合が今後の開示タイミングを左右します。1Q決算のタイミングで通期予想が示されるかどうかも注目点の一つです。
5. 配当の魅力
| 決算期 | 年間配当 | 配当性向 |
|---|---|---|
| 2025年3月期 | 60円 | 22.4% |
| 2026年3月期 | 70円 | 23.2% |
| 2027年3月期(予想) | 70円(据え置き) | 未定 |

興味深いのは、業績予想が「未定」であるにもかかわらず、配当予想は年70円(据え置き)として開示済みである点です。電力会社は伝統的に配当性向が低め(中部電力は20%台前半)で推移しており、業績のブレに対して配当は相対的に安定させやすい業種特性があります。なお、燃料価格の変動が電力販売価格に反映されるまでの「期ずれ」を除いた実力ベースの配当性向は、前期23.9%・当期23.2%とほぼ横ばいで推移しています。
6. 類似銘柄との比較
| 銘柄 | PER(予) | PBR | 配当利回り(予) |
|---|---|---|---|
| 中部電力(9502) | ―(未定) | 0.72倍 | 2.33% |
| 関西電力(9503) | 8.5倍 | 0.76倍 | 3.38% |
| 九州電力(9508) | 6.8倍 | 0.85倍 | 2.81% |
数値は2026年7月24日時点の株探等に基づく概算です。他の大手電力会社が今期予想を開示しPERを算出できる一方、中部電力だけはPERが算出不能という状態にあり、これも「未定」であることの分かりやすい表れです。PBRは0.72倍と関西電力・九州電力より低く、配当利回りも見劣りする水準で、業績の不透明感が株価評価にも一定程度織り込まれている可能性があります。1Q決算やそれに伴う情報開示が、この評価にどう影響するかも注目です。
7. 保有状況
筆者は保有株数分の中部電力株を保有しています。取得単価は1,208円で、2026年7月24日終値2,999.5円に対して含み益は+148.3%です。予想配当70円に対する取得単価ベースの利回り(取得利回り)は約5.8%となります。
8. NISAとの相性
インフラ企業として配当を相対的に安定させやすい点は、非課税で配当を受け取れる新NISA(成長投資枠)との相性が良いポイントです。一方で、今回のように業績予想そのものが「未定」になるなど、エネルギー価格や地政学リスクの影響を強く受ける業種でもあります。短期の業績のブレに一喜一憂せず、配当の安定性を軸に長期保有で向き合うスタンスが向いている銘柄と言えるでしょう。
9. 個人株主としての見解
今回の1Q決算で筆者が注目しているのは、①通期業績予想が今回で示されるか、それとも「未定」が継続するか、②JERAの持分法投資利益が1Qも高水準を維持しているか、の2点です。中東情勢という外部要因に業績が左右される展開は個人投資家としてはコントロールしづらい部分ですが、配当70円据え置きの方針が示されている以上、当面は株主還元の安定性を評価しつつ、通期見通しが明らかになるタイミングを待つスタンスで臨む予定です。
10. 免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。記事内の数値は決算短信・IR資料等の公表情報および各種情報サイトに基づく概算であり、正確性を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。


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